家族法コラム

4.実母かつ養母?

戸籍を扱っていると、不思議なことに遭遇します。
血縁関係のある母親に間違いないのに、戸籍上「養母」となっている場合があるのです。子どもが戸籍を取得したら驚きますよね、「お母さんは本当のお母さんじゃないの!?」と。

これには、ちゃんとした理由があるのです。
このコラムの2でご説明したように、婚姻している夫婦間に生まれた子でない場合は、非嫡出子(ひちゃくしゅつし)と呼ばれます。
非嫡出子の戸籍には母欄のみの記載があり、父欄は空欄となります(実父が認知した場合は父の名前も入ります)。
その後、母が子の実父と婚姻する場合は、認知と婚姻により子は嫡出子となりますので特段問題はありません。が、母が子の実父と別の男性と結婚することになった場合は、母が婚姻して夫の氏を名乗ったからといって、子が自動的に母と同じ氏となるわけではありません。

コラム3でも触れましたが、母の婚姻後に父母の氏を称する入籍が行われば、子は母と同じ氏を名乗ることができます。しかしそれでは、この子と父となる者との間に親子関係は生じません。
父となる者がいくら自分の子だと公言しても、戸籍上はあくまでも「妻の子」です。
そこで養子縁組をすることにより、その子は実子となり、嫡出子の身分を得ることができます。
この養子縁組ですが、民法上、未成年の非嫡出子を養子とするには夫婦共同でしなければならないとされています。
つまり、未成年の非嫡出子が新しい父と養子縁組をするには、その配偶者である実母とともにしなければならないということです。
そうなると母の名前は、母欄だけでなく養母の欄にも並んで記載されることになります。
もし婚姻した夫との間に子が生まれれば、その子は当然ながら嫡出子、母の名前は母欄のみ。しかし上の子の戸籍には、母欄とともに養母欄にも。
何とも悩ましいですが、これが法の現実です。

とはいえコラム2の通り、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の半分であるという規定が改正されて平等となった今、これだけが養子縁組の目的であったのなら、その必要はなくなったということになりますね。

3.誤解される入籍

「この度、入籍することになりました」と結婚指輪を記者の前にかざすカップル。
巷では、入籍=結婚と信じて疑わない方が大勢いらっしゃると思います。
「え、違うの!?」「はい、違います」

広義には、文字通り「戸籍に入ること」を指します。
ただし、「既に存在する戸籍に入ること」ですので、初婚同士の婚姻の場合は、厳密には「新戸籍の編製」であり「入籍」ではありません(夫がすでに単独の戸籍の筆頭者となっている場合には、妻が「入籍」することになります)。
出生により親の戸籍に入るのも入籍ですし、離婚も夫婦の戸籍から新しい戸籍への入籍です。
入籍の逆を除籍といいます。除籍と聞くと、亡くなったときに戸籍から外されるイメージかもしれませんが、こちらも文字通り「戸籍から除かれること」です(全員が除籍された戸籍そのものを意味する場合もあります)。
結婚により親の戸籍から除籍され、離婚により夫婦の戸籍から除籍されるということですね。
つまり、婚姻届や離婚届の提出だけで、入籍や除籍が同時に行われているのです。ということは、離婚の際にも「この度、入籍することになりました」と言っても何ら間違いではないのです。

先ほど「広義には」と書きましたが、狭義の入籍についてご説明します。
婚姻のときは「婚姻届」、離婚のときは「離婚届」、出生・死亡のときは「出生届」「死亡届」を役所に提出します。入籍届や除籍届ではありません。
実際に「入籍届」というものが存在します。
これは、親の離婚等によって父または母と氏を異にする子が、その父または母の氏を称しその戸籍に入るための届出です(ほとんどの場合、事前に家庭裁判所の許可が必要ですので注意)。
ですので、婚姻届のつもりで「入籍届をください」などと決して言わないようお気をつけください。

それにしてもあのような記者会見、いつの時代にも女性は憧れるものです。ただし、「この度、婚姻届を提出することになりました」と言うのが無難ですね。

2.子について

今回は「子」について書いてみます。
「子」には、法律上「嫡出子(ちゃくしゅつし)」「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」という概念があります。舌をかみそうな文言ですよね。
「嫡出子」とは、法律上の婚姻関係がある夫婦間において出生した子のことをいいます。「非嫡出子」とは、嫡出子でない子です。ちなみに養子は、親子の血縁関係はありませんが、縁組の日から嫡出子の身分を得ます。

通常、夫婦の間に出生した子は、その夫婦の子どもといえますよね。
で も民法では、夫婦間に生まれた子でも嫡出子だと断言はしていません。「嫡出子と推定する」としています。この「推定する」とは、反証があれば覆るという意味です。たとえ夫婦間の子でも、父親は婚姻中の夫とは限らないでしょ?ということですね。夫が「自分の子じゃない!」と提訴することが可能ということです (嫡出否認の訴え)。

一昨年このような民法改正がありました。
非嫡出子の法定相続分を、嫡出子の2分の1とする規定が撤廃され、嫡出子か否か関係なく等しくなりました。つまり、その垣根を超えて「子」として平等とされたわけです。
この改正には、波紋が生じました。
「憲法で法の下の平等を謳っている以上当然だ」という賛成派が多い中、「法律婚を重視しなければ家族制度の崩壊が起こる」という反対派も。反対派からは早くも、婚姻している配偶者に対しての優遇案が出ています。
子の立場からすれば、親が結婚しているかどうかなんて関係ない、しかし、その子を取り巻く人間関係はとても複雑です。嫡出子の親、非嫡出子の親、それぞれの思いがあるでしょう。
この点、親や家でなく子の視点で、法は切り込んだといえるのではないでしょうか。
※ただし、父親が認知していなければ相続権は発生しませんし、認知してもその親同士が婚姻しなければ、嫡出子とはなりませんのでご注意を。

シングルマザーや事実婚の増加。近年、親子のあり方は多様化しています。
親子の問題と法整備は切っても切れない関係です。このコラムが、個人だけでなく社会においても、家族、親子について考えるきっかけになれば幸いです。

1.親族とは

みなさんは、家族を法律面からとらえたことがありますか?
父母がいて自分がいる、そして配偶者や子、兄弟姉妹も家族と認識していますよね。
伯父や叔母、甥や姪もあなたにとって家族ですか?
そんな思いを馳せると、自分の命は祖先から受け継がれたものであり、存在は奇跡だと実感してきませんか。
この機会に、家族という概念について考えてみましょう。
実は「家族法」という法律はありません。
「民法」の家族関係に関する規定の部分が「家族法」と呼ばれており、いわゆる講学上の用語です。
家族という概念については、法律によって若干の違いがありますが、ここでは「民法」について述べていくこととします。
親等という言葉を耳にしたことがあるでしょう。自分を基準として親族関係を数字で表したものです。
父母や子は1親等、祖父母や孫、兄弟姉妹は2親等です。
必ずしも血のつながった親族でなくても、配偶者の父母も1親等ですし、兄弟姉妹の配偶者も2親等になります。ただし血族ではなく、姻族(配偶者の血族および血族の配偶者)といいます。
ちなみに、自分自身や自身の配偶者には親等がありません。
民法では、親族の範囲がこの親等により規定されています。民法上の親族とは「6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族」です。
さあ、家系図を書いてみましょう。誰が民法上の親族に該当するのか一目瞭然でしょう?
今後何らかの請求をする際に、「2親等内親族に限る」なんて書かれていれば、誰までが対象なのか、すぐ頭をよぎるようになりますね。
「ああ、あの伯父さんは3親等なのか、姪っ子も3親等なのか」などということがわかれば、親族を今まで以上に身近に感じられるようになるかもしれません。私事ですが昨年、いとこ(4親等)に孫ができました。この子は6親等。民法上、この子まで私の親族に当たります。そう考えると、6親等ってかなり広範囲ですよね。