遺言書の基礎知識
遺言書と聞くと、亡くなる前に書く最後の書面だと思う方が多いかもしれませんね。
ですが、遺言書は遺書とはまったく異なるものです。
遺書は、死ぬことを前提に自分の気持ちを家族や関係者に手紙として託すものです。
身の潔白、自己保身、加害者への非難、恨み、家族への思いなどで綴られることが多いです。
ですが遺言書は違います。
目前の死に備えて残す、という特別方式の遺言もありますが
通常は普通方式の遺言として「自分が蓄えた財産を自分の意思で自由に配分、処分するため」に書くものです。
そうすることで、相続人たちが争うことなく遺産の分割ができるのです。
また、遺言は決して高齢者やお金持ちだけがするものではありません。
なぜなら、「もしも」は突然やってきて財産の額にかかわらず相続が発生するからです。
相続手続きのわずらわしさは、財産の多い少ないに関係ありません。
たとえ預金がゼロでも、借金だけでも、相続は発生します。
そして、相続人の数が多い、すでに亡くなっている、外国にいる、判断能力がない、となると、相続手続きはこの上なく煩雑になります。
この煩雑さは、お金持ちもそうでない人も同じです。
遺言書の効力
正しく書かれた遺言書には、法的効力があります。
遺言は、法定相続分に優先します。
具体的には、以下の項目について法的な効力があります。
①相続分の指定、委託
例:財産は妻、長男、長女それぞれ3分の1ずつとする
②相続人の廃除、または廃除の取り消し
例:次男を相続人から廃除する
→遺留分のない兄弟姉妹は廃除できません。
③子の認知
例:香川県さぬき市のA子が現在懐胎している子を認知する
④後見人および後見監督人の指定
例:未成年である次男の未成年後見人として自分の親を指定する
⑤遺産分割方法の指定、指定の委託
例:妻に不動産、長男に預貯金を相続させる
⑥遺言執行者の指定、指定の委託
例:遺言執行者として行政花子(行政書士)を指定する
⑦遺留分減殺方法の指定
例:長女が遺留分を侵害され減殺請求をするときは、B銀行の預金から行うこと
⑧相続人相互の担保責任の指定
例:次男に相続させるC土地の価値が下がった場合は、長男が差額を負担する
⑨特別受益分の持ち出しの免除
例:長男に500万円を生前贈与したが次男にはしていないので、長男の相続分をゼロとする
→遺言書自体は有効ですが、長男の遺留分減殺請求権がなくなるわけではありません。
⑩遺産分割の禁止
例:遺産分割を5年間禁止する
→最長5年間なので注意。
⑪遺贈について
例:長男の嫁に1000万円を遺贈する
⑫祭祀継承者の指定
例:お墓や仏壇を受け継ぐ者として長女を指定する
⑬寄付行為
例:財団法人△△会の設立のため、次の通り寄付行為をする
⑭信託の指定
例:D信託銀行に1000万円を信託する
→受託者は信託銀行である必要はありません。親族や第三者でも構いません。
⑮生命保険受取人の指定、変更
例:E生命との保険契約の受取人を次男に変更する
上記15項目以外、たとえば「遺産分割の際にはもめないように」「私が亡くなっても兄弟仲良く」というような文面に法的な拘束力はありません。
ですが、「付言(ふげん)」という形で最後に付け加えることはできます。
残されたご家族に、ご自分の思いを伝えるには有効な事項です。
遺言書がないと…
遺言書がないと、相続人全員による遺産分割協議をするしかありません。
話し合いがスムーズに進まない、相続人が遠方にいる、行方不明で集まらない、協議をきっかけに兄弟と不和になった、ということはよくあることです。
「自分の家族は大丈夫だろう」と思っていても、思わぬ火種が勃発することもあります。
もめながらも協議が話し合いで済むならまだしも、協議が調わず裁判にまで発展する可能性もあります。
遺言書があれば、このわずらわしい遺産分割協議を行わなくてすみます。
相続人は故人の意思を尊重しながら、遺言書の内容通りに遺産分割の手続きを行えばよいのです。
遺言書がなく遺産分割協議を行う場合
財産や借金をすべて明らかにし、生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を準備し、財産目録を作成します。
その後、相続人全員によって遺産分割協議を行います。
それぞれが何を相続するか決まったら、「遺産分割協議書」を作成します。
やっと、預貯金や不動産の名義変更が可能になります。
金融機関は、死亡が確認されるとその人の口座を凍結します。
「遺産分割協議書」を含む書面をすべてそろえて提出することにより、凍結が解かれます。
ここで遺言書があり遺言執行者の指定があれば、遺産分割協議を行わずして名義変更やお金の払い戻しが可能になります。
遺産分割協議に時間がかかり、名義変更や払い戻しがなかなかできないと当面の生活に困ることにもなりかねません。
また、土地や建物などの名義変更をする際にも「遺産分割協議書」が必要です。
このように、「遺産分割協議書」が作成されるまでには時間がかかります。
遺言書があることによって、残された家族の負担がずいぶんと軽くなることは間違いありません。
遺言書がトラブルを防ぐ
遺言書はよく、防災用品や生命保険と同じだと言われます。
いざというときに備え準備していることで未然にトラブルを防ぐことができ、安心を得ることができるからです。
遺言書は、どんな人でも書いておいたほうがいいのですが、特に以下の方にはおすすめします。
たった1通の遺言書があるだけで、後のトラブルを回避することができます。
●子どもがいない方
→相続人が、配偶者と亡くなった人の親または兄弟、場合によっては甥姪になり協議が進まない可能性があります。
●実子と、配偶者の連れ子がいる方
●前の配偶者の子と現在の配偶者の子がいる方
→子ども同士(異母または異父兄弟姉妹)のトラブル防止のために自分の意思を遺言書に書いておきましょう。
●障がいのある子がいる方
→「親亡き後問題」について、親が元気なうちにどのように「亡き後対策」に備えておくかを考えることが重要です。
遺言書で後見人および後見監督人の指定をしたり、遺言信託をしたりしておくとよいでしょう。
●法定相続分と違った割合で財産を分割したい方
→自分の介護をしてくれたりお店の手伝ってくれた子どもに多く残してあげたいという思いがあるなら、遺言書は必ず書いておくべきです。法定相続に従うと、その希望がかなわなくなる恐れがあるからです。
●相続権のない内縁の妻や息子の嫁、甥や姪、孫に財産の一部を渡したい方
→そもそも法定相続人ではないので、遺言書がなければ遺産を受け取ることはできません。
甥や姪、孫は代襲相続(※)で相続人になる場合があります。
※代襲相続とは、亡くなった人よりも先に相続人が死亡している場合に、その子(孫や甥姪など)が相続人になること。
●自宅やお店・会社を特定の子に相続させたい方
→思いを現実にするには遺言書が効果的です。
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遺言書の種類
一般的に作成されている遺言書は2種類あります。
1.自筆証書遺言…本人が自筆で書く
①すべて自筆で書きましょう
~パソコン・ワープロ不可。代筆不可。最後に署名だけするのも不可。録音録画も不可。
②作成した日付けを正確に書きましょう
~年月日すべて。「吉日」不可。
③署名し、印鑑を押しましょう
~戸籍上の姓名を書くこと。印鑑は実印でも認印でも構いません。
④見つけてもらいやすい場所に保管しましょう
~亡くなった後、家庭裁判所に提出して検認(※)を受ける必要があります。
※検認とは、相続人が管轄の裁判所に遺言書を提出してその状態を確認してもらうこと。
遺言書の効力の有無を判定するものではない。
封印してある遺言書は、家庭裁判所で相続人の立会いのもとで開封しなければなりません。
⑤家族に保管場所を伝えておきましょう
~遺言執行者や専門家に預かってもらえるよう依頼してもいいですね。
2.公正証書遺言…公証人が公証役場で作成する
①原案作成(下書き)を専門家に相談しましょう
~行政書士は身近な相談役です。
②必要なものを準備しましょう
~遺言者の実印、印鑑登録証明書、戸籍謄本、登記簿謄本や固定資産評価証明書(不動産が含まれている場合)、預貯金の通帳など。
遺贈がある場合、受遺者の戸籍謄本、受遺者が相続人でない場合はその人の住民票
③証人二人を依頼しておきましょう
~信頼できる方、行政書士などの専門家に依頼しておきます。
下記の者は、証人にはなれません。
●未成年者
●推定相続人、受遺者およびこれらの配偶者、直系血族
●公証人の配偶者、4親等内の親族、書記、使用人
④公証役場に出向きましょう
~まず事前予約して、作成依頼と打ち合わせを行います。
指定日時に証人とともに改めて出向き、遺言内容の最終確認後、署名押印します。
出向けない場合は公証人に出張してもらえます。ただし、手数料が加算されるとともに日当や交通費もかかります。
⑤費用を現金でお支払いしましょう
~財産の価額によって手数料が変わります。
100万円まで 5,000円
200万円まで 7,000円
500万円まで 11,000円
1000万円まで 17,000円
3000万円まで 23,000円
5000万円まで 29,000円
1億円まで 43,000円
総額1億円未満の遺言加算 上記に11,000円加算
3億円まで 5000万円ごとに13,000円加算
10億円まで 5000万円ごとに11,000円加算
自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらもメリットデメリットがあります。
どちらを選んだらよいかわからないときは、ぜひご相談ください。
年齢や財産、家族状況、法定相続人は誰かなど必要な情報をお聞きした上でアドバイスさせていただきます。
料金:
自筆証書遺言 作成支援 70,000円(税別)
公正証書遺言 作成支援 90,000円(税別)
公証人との打ち合わせも当方で行います。ただし、公証役場および証人に支払う費用は別となります。