遺言書コラム

11.相続人がいない

(かがわ経済レポート平成28年2月15日号に掲載されました)

亡くなった人に相続人がいない場合があります。未婚・死別・離別で配偶者がいない、子もいない、両親はすでに死亡している、兄弟姉妹もおらず一人っ子、このような境遇の方だけでなく、相続人全員が相続放棄をした場合も、相続人不存在とされています。

相続人不存在の確定により、相続財産は国庫に帰属することになりますが、この国庫帰属の前に、特別縁故者が相続財産分与を受けることのできる制度があります。

特別縁故者とは、被相続人(亡くなった人)と生計を同じくしていた、被相続人の療養看護に努めた、その他被相続人と特別な縁故があって、家庭裁判所から認められた人のことです。
特別縁故者が財産を取得するためには家庭裁判所への申立てが必要ですが、相当と認められるまでには時間がかかりますし、必ずしも認められるわけでもありません。また、特別縁故者への財産分与が行われてもなお財産が残っている場合、その残余財産は国のものとなります。

以上を踏まえると、改めて遺言書の必要性を痛感せざるを得ません。

相続人の不存在が明らかで、かつ深い関わりのあった人がいるなら、財産を遺贈する旨の遺言書を作成しておくといいでしょう。例えば、「財産の全部(二分の一)をAに遺贈する」「土地建物をBに遺贈する」などと遺言することで、遺言者の死亡と同時にその効力が発生します。
前者のように、相続財産の割合を記載した場合の受遺者Aは、相続人と同一の権利義務を有するので、放棄の意思は家庭裁判所への申立てをもって行わなければなりません。後者のように財産を特定した場合は、自由に遺贈の放棄ができます。Bは、受けたくなければ遺言執行者への意思表示を行うだけでいいのです。

自己の思いを形にするために、遺言書を有効活用しましょう。

10.付言の必要性

(かがわ経済レポート平成28年1月15日号に掲載されました)

遺言書の最後に、付言(ふげん)というメッセージを残すことができます。主に、なぜこの遺言書を作成したのか、どういった経緯でこの遺言内容に至ったのか、このように財産を分けた理由、家族への感謝の思いなどを書き加えます。

これらの付言事項に法的効力はありません。しかし、相続を巡る争いを避ける上で、大きな効果があると言われています。

たとえば、子A子Bに均等に相続させず、Aに三分の二、Bに三分の一の相続分を遺言書で指定した場合。Bは恐らく「なぜ私のほうが少ないのか」と疑問を抱くでしょう。そんなときにこそ付言の出番です。
「Aは私と同居し、事業も継いでくれた。だから多く残してやりたい。この思いをどうかBは理解してほしい。そして、これを理由に兄弟で争うことのないように」「Bには、県外の大学へ進学した際に多額の学費と生活費を援助してきた。だがAは高校卒業後すぐに就職したため、十分な援助をしてやれなかった。それでこのような分割割合にした。私の気持ちを察してほしい」というふうに。これでBも納得するに違いありません。

また、子どものいない夫婦で、妻と夫の兄弟姉妹が相続人となる場合。夫が生前に「財産すべてを妻に相続させる」という遺言を残しておけば、兄弟姉妹には遺留分がないため、夫亡き後、妻は遺言の通りに相続することができるのですが、この際にも付言を加えておくことをお勧めします。
「妻のおかげで幸せな人生であった。私亡き後も妻には、この家で穏やかに暮らしてほしいと願っている」と。このような付言があることにより、ご兄弟の方々もきっと故人の意思を汲んでくれることでしょう。

相続人以外の人に財産を渡す遺贈の場合もしかり。その理由を付言できちんと伝えておきましょう。

9.遺言執行者の役割

(かがわ経済レポート12月15日号に掲載されました)

遺言書の存在が明らかになったなら、その内容通りに実行がなされなければ、遺言を残した意味がないですよね。この、遺言者が亡くなったときに遺言内容を実現するための手続きを行う者のことを「遺言執行者」といいます。言い換えれば、相続人の代理人ですね。遺言内容に従って、忠実に手続きを進める役目を担います。

遺言執行者は、未成年者または破産者でなければ、誰でもなることができます。相続人でもいいですし、その他の親族や友人でも構いません。トラブルに発展する恐れがあるなら、専門家を指定することも可能です。

遺言書を作成する際には、遺言執行者を指定しておくことをぜひお勧めします。指定した相手に、事前にその旨を知らせる義務はありませんが、就任を承諾するか否かは指定された方の自由ですので、できれば遺言書作成に当たり了承してもらっておいたほうがいいでしょう。

遺言執行者の指定がなくても執行できる手続きもありますが、遺言執行者でなければ執行できない手続きもあります。後者の場合は遺言書で指定されていなければ、相続人が家庭裁判所にその選任の申立てをしなければなりません。また、遺言執行者・相続人双方が可能な手続きであっても、相続人が執行するより、指定された第三者が行うほうが円滑に進む場合もあります。

遺言書に遺言執行者の指定があれば、相続人全員による遺産分割協議が不要なだけでなく、迅速かつ確実な遺言内容の実現が可能となります。万一、遺言内容と異なる遺産分割協議が相続人間で行われた場合には、遺言執行者の同意が必要ですので、その点はご注意ください。

遺言執行者を指定することにより相続人の負担が軽くなる、そう理解した上で遺言書を作成しましょう。

8.生前の遺留分放棄

(かがわ経済レポート11月15日号に掲載されました)

今回も引き続き、遺留分にまつわるコラムです。

ご承知の通り、会社名義の不動産や預貯金等は会社の資産であり、相続の対象となりません。留意すべきは、相続により取得した自社株です。

たとえば、ある株式会社の社長Aが、子Bに事業を承継させるため、自社株をBにのみ相続させたいと考えました。Aの妻はすでに死亡しており、相続人はBと、子C子Dを合わせた三人です。CとDには、その代償を準備しているので、遺留分を放棄してほしいと思っていますが、生前に遺留分の放棄をさせることは可能でしょうか。

はい、相続発生前に遺留分を放棄することは可能です。ただし、家庭裁判所の許可が必要となります。それは相続人が、被相続人(この場合A)等の圧迫によりあらかじめ放棄するよう強要される恐れがあるからです。

遺留分を侵害された一定の相続人は、遺留分減殺(げんさい)請求権という権利を行使して相当分を取り戻すことが認められていますが、遺留分放棄をすると、この請求ができなくなってしまいます。

CとDに遺留分を放棄させたいのであれば、同時にAは、遺言書を作成しておく必要があります。CとDが遺留分の放棄をしたとしても、Aが遺言を残していなければ、遺留分の放棄は何の意味もなくなってしまうからです。つまり、「自社株すべてをBに相続させる」という遺言による意思表示をしておかなければ、相続発生後にCとDから、「遺留分を放棄しただけで相続権までは放棄していない」と主張される可能性があるということです。遺留分を放棄したといってもCもDも相続人に変わりはありません。遺言がなければ結局、相続人全員で遺産分割協議を行うことになってしまいます。

遺留分の放棄と相続放棄はまったくの別物、そう理解しておきましょう。

7.遺留分と生命保険

(かがわ経済レポート10月15日号に掲載されました)

遺留分が侵害された遺言でも無効にはならない、と前回ご説明しました。遺留分権利者からの「遺留分減殺(げんさい)請求」がなければ、その遺言は有効でしたね。

遺言者は時として、「相続人以外に財産を残したい」「一人の相続人に全財産を相続させたい」といった意思をもち、遺留分を侵害することを理解していながら、そのような遺言を残すことがあります。

この場合、遺言で遺留分減殺の方法を定めることができます。
たとえば、「全財産を相続人Aに相続させる」という遺言書を作成すると、もう一人の相続人Bの遺留分を侵害してしまいますよね。そこで、「Bから遺留分減殺請求があった場合は・・・と定める」というふうに、あらかじめ遺言書の中で、その対応(減殺の順序や割合など)を指定しておくのです。

相続財産が自宅だけのような場合には、減殺請求に備え、生命保険を活用する方法があります。保険金は受取人固有の財産で相続財産にはならない※ため、減殺請求をされたときの代償金として利用できるのです。※例外的に、相続人間での不公平さが甚だしい場合は、特別受益に準ずるとして相続財産に加算した判例があります。

一般的に遺言者は、「Aに全財産を残すので保険金はBに」と考えるでしょう。しかし、全財産をAに渡したい思いが強いのであれば、保険金受取人をBにしない方がいいのです。先述の通り、保険金は相続財産にはならないので、Bは保険金を受け取ってもなお、Aに対して減殺請求をすることが可能だからです。そこでAを、Bの遺留分相当額の保険金受取人として指定しておけば、Bからの減殺請求に対しAは、受け取った保険金からBに支払えばよく、自己資金から捻出したり不動産を換金して分割したり、自宅を共有名義にしたりしなくて済むというわけです。

遺留分を侵害する遺言書を作成する際には、さまざまな観点から総合的に考えておきましょう。

6.遺留分って何ですか?

(かがわ経済レポート9月15日号に掲載されました)

遺留分(いりゅうぶん)とは、一定の相続人に保証された相続財産の割合です。相続人が受け取れる最低限の相続分ですね。

たとえば、故Aに妻Bと子Cがいたとします。生前、Aは「財産すべてをDに遺贈(相続人以外の者に財産を与えること)する」という遺言書を作成していました。この場合の総体的遺留分は、相続財産の二分の一、これにBとCの法定相続分(各二分の一)を乗じた四分の一が、BとCそれぞれの個別遺留分となります。

民法上、個人の財産は自由に処分できるという原則がありますが、残された家族の生活保障や、故人の財産形成に貢献した相続人の保護という観点などから、遺留分の規定が定められているのです。

遺留分が侵害された遺言書であっても、当然に無効となるわけではありません。そこでBとCは、Dに対して「遺留分に相当する財産を返してください」と主張することができます。この権利を、「遺留分減殺(げんさい)請求権」といいます。これを行使するか否かは、相続人各々の意思に委ねられています。つまり、「返してください」とDに請求しようが、「Dにすべて渡しても構わない」と、Aの意思を尊重して遺言内容の通り受け入れようが、BとCの自由だということです。

また、遺留分は兄弟姉妹には認められていません。ですので、子どものいない夫婦で、夫が先に亡くなり、妻と夫の兄弟姉妹が相続人となるような場合は、夫が「財産全部を妻に相続させる」という遺言を残しておけば、妻は遺言通りに相続することができます。遺留分のない兄弟姉妹は、遺留分減殺請求を行うこともできません。

遺言書を作成する際には、推定相続人や遺留分権利者に当たる人を事前に把握しておきましょう。その上で、遺留分を侵害する可能性がある場合は、あらかじめそれに配慮した遺言内容にしておくといいでしょう。

5.公正証書遺言について

(かがわ経済レポート8月25日号に掲載されました)

自筆で残す自筆証書遺言、そして、公証人が作成する公正証書遺言、前回までこれらについて説明してきました。では、そもそも公正証書とは何なのでしょうか。

公正証書とは、法律の専門家である公証人が、その権限に基づいて作成する公文書です。公証人は、裁判官や検察官など長年法律に携わってきた者の中から法務大臣により任命され、全国各地の公証役場で執務しています。

一般的な契約書や念書などの私文書と違い、公正証書で作成された公文書は、真正に成立したものと推定されます。これは、文書が偽造でなく、極めて高い証拠力をもつことを意味します。

また、金銭の支払いを目的とする公正証書は、執行力を有しています。つまり、その旨の条項を盛り込むことで、裁判を起こさなくても直ちに強制執行の申立てができるというわけです。

公証役場では、契約書のような当事者双方の合意に関する文書と共に、遺言書のような単独行為に関する文書も作成されています。公証人は遺言書作成に当たり、その内容が違法・無効でないかを審査し、法的な問題があれば適切な助言を行います。これにより、形式的にも法律的にも不備のない、安全かつ確実な遺言書が仕上がるのです。

作成当日は、遺言者本人が二人以上の証人を伴い、公証役場に出向きます(公証人の出張も可能)。公証人が遺言の内容を遺言者と証人に読み聞かせ、各自が公正 証書の原本に署名押印します。原本は公証役場に厳重に保管されるため、交付された正本・謄本を、万が一紛失しても安心です。

公正証書遺言は、その作成に時間や費用がかかり、撤回も簡単にはできませんが、相続発生時のトラブルを未然に防止し、権利を迅速に移転させるための有効な手段です。その特性から、公正証書を選択する方が好ましいケースは、多分にあるのではないでしょうか。

4.遺言を撤回したい

(かがわ経済レポート7月15日号に掲載されました)

思いを形にした遺言書。しかし、いったん作成はしたものの、後日その内容を「取り消したい」「変更したい」という気持ちになることもあるでしょう。遺言は、いつでも何度でも撤回や変更をすることが可能です。新たな遺言書に、前の遺言を撤回する旨を明記すればいいのです。

遺言書による撤回の意思表示をしなくても、撤回があったとみなされることがあります。これを「法定撤回」といいます。
たとえば、内容の異なる二通の遺言書が存在する場合、日付の新しいほうが優先します。つまり、新しい遺言で前の遺言を撤回したことになるのです。ただし、内容が抵触(矛盾)する部分についてのみ新しい遺言が適用され、抵触していない部分は、前の遺言も依然として有効ですのでご注意ください。

このほかにも、「建物を相続させる」という遺言内容を記した後、生前にその建物の売却や贈与をしたり取り壊したりした場合も、遺言書の該当部分について撤回したものとみなされます。

また、撤回する旨の遺言を取り止めて「初めの遺言に戻したい」と思うこともあるかもしれません。しかし、最初の遺言を撤回した二回めの遺言を、三回めの遺言でさらに撤回しても、最初の遺言が復活することは原則としてありません。一度撤回したことよって、最初の遺言の効力はすでに失われているからです。この場合には、復活させたい内容の遺言書を新たに作成する必要があります。
自筆証書遺言なら、失効させたいものを破棄して書き直せばいいのですが、公正証書遺言だと気軽に何度も撤回したり作成し直したりできませんよね。

それぞれの家族関係や財産状況、遺言者の意思にもよりますが、まずは自筆証書で作成し、気持ちが固まったら公正証書で、という流れが望ましいといえるのではないでしょうか。

 

3.どちらを選択?

(かがわ経済レポート6月15日号に掲載されました)

遺言書のコラムも第3回となりました。少しは興味が湧いてきましたでしょうか?それではいよいよ、具体的な内容に進んでまいります。

遺言は民法上、特別方式のものを除いて、3種類認められています。その中では、自筆証書遺言・公正証書遺言が一般的な遺言です。
自筆証書遺言は、文字通り、自筆で遺言を書き残します。いつでもどこでも作成でき、費用もかかりません。しかし、ルールに基づいて書かないと無効になるばかりか、紛失してしまう、発見されない、誤って捨てられる等のリスクもあります。
一方、公正証書遺言は公証役場で公証人が作成し、原本は公証役場で保管されますから安全です。公証人の関与により、遺言能力の有無についてのトラブルも避けられます。ただ作成の際に、二人の証人に遺言の内容を知られてしまったり、公証人との事前打ち合わせの手間や作成手数料がかかったりします。この事前打ち合わせには相当な時間を割かれますので、文案作成や証人立会いとともに専門家に依頼される方もいます。
ここまでで判断すれば、自筆証書遺言のほうが気楽に作成できると言えますね。

では、遺言者が亡くなった後のことを考えてみましょう。
公正証書遺言の場合は、何の手続きを踏まなくても、その公正証書により迅速な遺言の執行が可能です。
ところが自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所での検認という手続きが必要になってきます。検認とは、相続人が家庭裁判所に申し立て、遺言書の開封・確認をしてもらう手続きです。検認が終わるまでの期間、遺言内容を実現することは一切できません。

要するに、生前に一人で自筆証書遺言を作成すれば、自分は楽だけれど相続人は面倒、公正証書にすると、自分は面倒だけれど相続人は楽ということですね。どちらを選択するかは、それぞれのメリットデメリットをご理解の上、よくお考えください。

 

2.遺言書は万能じゃない?

(かがわ経済レポート5月15日号に掲載されました)

前回、遺言書とは自己の財産の配分を明記したもので、法的効力があるとお伝えしました。
では、遺言に何を書いても法的効力があるのでしょうか?いいえ、民法では、効力のある内容が決められています。これは「遺言事項」といって、大きく分けると三つ。

まず「財産の相続」についてです。どの財産を、どの相続人に、どれくらいずつ分配するのかを指定します。
二つめは「財産の処分」です。相続人以外の人に財産を渡す(遺贈する)ような場合です。
三つめは、子の認知のような「身分上の行為」を定めることです。

民法は、相続人の間で分配される財産の割合を、優先順位とともに規定しています。これを「法定相続分」といいます。配偶者が二分の一、残りの二分の一を子の数に応じて均等に分けるといった内容です。
ところが、遺言があれば、この法定相続分とは異なる配分で財産を分配することが可能になります。法定相続人ではない息子の妻に、財産の一部を渡すと遺言することも可能なのです。遺言は法定相続分より優先され、それだけ強い効力があるといえますね。

では、遺言書は万能でしょうか?
実は遺言書があっても、遺言が指定する遺産分割が相続人に不公平感を抱かせる内容だと、かえってもめることになる可能性があります。
たとえば、子の一人だけに全財産を渡す、学費や結婚・住宅資金などで多額の援助を受けた子がいるのに子全員に均等に相続させる、そのような場合はかえってもめる原因となります。
つまり、「遺言書が残されているイコールもめごとが起こらない」とは一概に言えないのです。生前の贈与分(特別受益)や寄与分を考慮し、また遺留分にも注意した上で作成しなければ、もめる原因を作ってしまうことにもつながりかねません。そういった意味では、遺言書は必ずしも万能ではないといえるのではないでしょうか。

 

1.遺言書に対する誤解

(かがわ経済レポート4月15日号に掲載されました)

遺言書を遺書のようなものだと認識している方がいらっしゃるかもしれません。
遺書は死を前提に自分の気持ちをしたためた手紙で、法的効力はありません。
一方、遺言書は目前の死に備えて残すという特別方式の遺言もありますが、通常は生前に構築してきた財産を自分の意思で自由に配分、処分するためのもので、法的効力があります(ほかに、生命保険金受取人の変更や子の認知も可能です)。

よく、自分には財産がないから遺言など必要ない、とおっしゃる方がいます。
しかし、平成25年の司法統計年報によりますと、財産額別相続争い全件のうち、1000万円以下が32%、1000万円超5000万円以下が43%と、5000万円以下が実に75%も占めているのです。
その理由として、換金や分割が困難な不動産が相続財産の約50%を占めていること、また、資産家はあらかじめ専門家に依頼して対策を講じていると考えられるからです。
さらに、相続人の数が多い、すでに亡くなっている、外国にいる、判断能力がない、となると、相続手続きはかなり煩雑になります。この煩雑さは、財産が多い少ないということとは関係ありません。

また、遺言は亡くなる間際に準備すればいい、とおっしゃる方がいます。
しかし遺言書を作成するには、それなりの時間とエネルギーが必要です。つまり、時間的な余裕があるというだけでなく、身体的・精神的にも健全であることが求められます。
亡くなる間際に作成した遺言書が、認知症などの判断能力低下の可能性から、本当に本人の意思で書かれたものなのか疑義が生じるケースがあります。そうなると、せっかく作成した遺言書が、紛争の原因や無効になってしまうこともあるのです。
最近の終活ブームにより、早くから遺影やお葬式について検討される方もいますが、遺言書を準備してあるという方は案外少ないですね。お元気な今であるからこそ客観的に死をとらえることができ、また、自分が亡くなった後のことを想定して冷静に判断し、財産の整理をしながら落ち着いて作成に臨むことができるのではないでしょうか。

遺言書がないと、相続人全員による遺産分割協議をするしかなく、協議が調わなければ、調停から裁判に発展してしまう可能性もあります。一通の遺言書が、このわずらわしい遺産分割協議を回避してくれるのです。相続人は、故人の意思を尊重しながら、遺言書の内容通りに遺産分割の手続きを行えばよいのですから。